移動児童館 「射的 その2」
何度射的に挑戦してもあたらない女の子が、上手な男の子に向かって、「ねーA君、今度取ったら私にちょうだいよー。」と言っているのです。
その声を耳にした私はすかさず、「そんなのだめだよー。頑張ってとった人だけが食べられるんだから。」と言い返しました。
子どもたちは不満げな中にも、「そうなのか。」と半分あきらめた顔で私を見返し、反論する子はいませんでした。
でも、一呼吸おいた私は、「ま、それもありか!みんなに任せるよ。」と真反対の言葉をはっしていました。
その声を聞くと同時に、列に並んでいた子も、いない子も上手らしき子を自分なりの判断で選び出し、「今度とったら頂戴よ!」「B君、一番上のお菓子取ったらちょっと分けてよ!」と口々に頼んでいるのです。
不思議なことに頼まれた子たちも「わかった。わかった。取れたらな。」と照れ笑いをし、断る子は一人もいませんでした。
しばらくすると「おばさん、これA君からもらちゃった。」と、おやつコーナーで自分が撃ち落したのでもないのに満足げにお菓子を周りの友達に見せびらかしながら食べている子が何人もいるのです。
いつもは一人か二人の子が自慢げだけれども、恥ずかしそうに、そして急いで食べているのに、今はおやつコーナーが賑やかです。
「A君取ったらちょうだいよ。」の声に、「やるわけないよ。自分で取れよ!」「わかった。わかった。とれたらな。」
あなたは両者の子どものどちらに我子がなってほしいと思いますか?
「あげないよ。」と言われたら「A君っていじわる。私もA君には絶対あげない。」と思うことでしょう。
分けてもらった子は「A君って優しい。私も誰かにA君みたいに分けてあげよう。」と思うことでしょう。
自分の力で成し遂げ、自分の力で手に入れていく。これからの子どもたちに「なにくそ、負けるもんか。」の頑張りも身につけて欲しいのですが、「分けっこ」の連帯感も味わわせたくもありました。
世の中、そんなに甘くはないのです。大きく成長するには「なにくそ!」の頑張る力も、「分けっこ」の優しい心もどちらも必要なのです。
言葉の掛け方の難しさを実感しました。